た草が生え
キノは、もう一度窓の外を見た。清潔でよく整った町並み。自然あふれる森の中の居住エリア。町としての機能は、今まで見てきた中では一番|優《すぐ》れていた。
「なんでだろう?」
キノがつぶやいた。
それからキノとエルメスは、『工場・研究所』エリアまで走って、完全自動|制御《せいぎょ》の工場を見学した。懇切《こんせつ》|丁寧《ていねい》に説明してくれたガイドさんは、やはり機械だった。
キノはその機械に、なぜこの国の人間を一人も見かけないのか訊《たず》ねたが、答えは返ってこなかった。
夕方、辺《あた》りが暗くなる前に、キノとエルメスは昨晩《さくばん》泊まったホテルに戻ってきた。別のホテルを探してもよかったが、朝食がおいしかったとのキノの要望で、わざわざ町を横断して東ゲートまで戻ってきた。
その間、誰《だれ》一人として見かけることはなかった。
次の日の朝、キノは朝食を、やはり食いだめした。
エルメスの燃料を補給し、携帯《けいたい》食料を買い込むと、西に向けて町中を突っ切るように走り始めた。真西のゲートから出国するつもりだった。
早朝の森の中に、エルメスのエンジン音が響《ひび》きわたった。キノはあまり居住エリアで騒音をたてたくなかったが、こればかりは仕方がなかった。なるべくエンジンを回さないようにゆっくり走っていった。
森の中になだらかな丘があって、キノはその頂上でエンジンを切った。坂道をそのまま下っていった。
キノは家が見えるたびに、誰か見えないかとさっと覗《のぞ》いてみるが、誰《だれ》も見えない。しばらくして坂をおりきり、すこし惰性《だせい》で走って、エルメスは止まった。
キノはエルメスのエンジンをかけようとした。その時、かちゃかちゃと人工の音が聞こえ、キノは辺《あた》りを見回した。
道から少し離れたところに、家の庭らしく整理さdermesれている。そのそばで、一人の男がしゃがんで、小さな機械をいじっていた。
男は機械の修理に集中して、キノにもエルメスにも気がついていなかった。エルメスがささやき声で、
「おお。こんな近くで目撃《もくげき》された、初めての人間」
まるで珍獣《ちんじゅう》でも発見したかのように言った。
キノはエルメスを押しながら、こっそりと近づいた。そして、男に声をかけた。
「おはようございます」
「うわあぁ!」
男が跳ね上がって驚《おどろ》いた。キノとエルdermesメスに振り向く。三十歳ほどの、黒縁《くろぶち》の眼鏡《めがね》をかけた男だった。彼の顔には、まるで幽霊《ゆうれい》でも見たような驚愕《きょうがく》の表情が浮かんでいた。そして言った。
「な、ななななななななななななななあ、なな……」
男は完全に、ろれつが回っていなかった。
「大丈夫《だいじょうぶ》ですか? すいません驚かしてしまって」
キノが言った。
「だだだだだ、だあだだぇれだだ……。いいいいついつつついうつ‥…」
男の言葉は意味をなしていなかった。エルメスが、
「キノ、言葉が違うんじゃない? 彼はこれできちんと自己|紹介《しょうかい》をしているんだ。『エレダダ・イイツイ』さんかな?」
「いや、そんなはずはないdermesと思うけど……」
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