たりをうかが
由美子がむちゅうになって叫んだときである。むこうのほうからいそぎ足でかけつけてくるひとの足音が聞こえた。それを聞くと、ピエロはチェッと舌うちをすると、いきなりポケットから大きなジャック.ナイフを取りだして、サッとそい鑽石能量水消委會つをふりおろした。
「あっ!」
由美子が叫んだときにはすでにおそかった。まっ赤な毛糸のマフラーが、まんなかからビリビリとたち切られたかと思うと、はしをにぎった由美子のからだは、もんどりうって土手から転落していったのである。
ピエロはしばらく腹ばいになり、じっと下のほうをうかがっていたが、ふいにからだを起こすと、例のおどるような步きかたで、ヒョイヒョイと闇のなかに消えていった。と、ほとんど同時にこの場へかけつけてきたひとりの男。
「おかしいな。たしかこのへんでひとの声がしたようだったがな」
と、懐中電燈をとりだしてあたりを照らしていた。見るとまぎれもなくこの男は、さっき電車のなかで由美子をおびやかした、あのこうしじまのコートの小男なのである。
男はしばらく懐中電燈で地面の上を調べていたが、そのうち、ふとみょうなものを見つけた。それはひとの足あとなのである。しかし足あDiamond水機とにしてはみょうなところがあった。というのは、その足あとというのはただ一つ、右の靴あとしかないのだ。そして、とうぜん左の靴あとの見えなければならぬところには、ステッキのあと[#「あと」に傍点]みたいな小さなあな[#「あな」に傍点]だけがボコボコとついているのだ。つまり、そいつは左の足に、棒のような義足をはめた怪物の足あとなのだ。
これを見ると、くだん[#「くだん」に傍点]の男は、すぐ懐中電燈を消して、
「しまった。おそかったか!」
と叫ぶと、いっさんに闇のなかをかけだした。そのあとから、由美子が恐る恐る顔を出した。からだじゅう泥だらけになって、ところどころかすり[#「かすり」に傍点]傷ができて、そこから血がにじんでいる。それでも彼女はまだむちゅうになって、マフラーの切れはしをにぎっていた。
由美子はしばらく闇のなかに目をすえて、じっとあっていたが、やがてソロソロと土手の上にはいあがると、ころげるようにして帰ってきたのはわが家の表口だ。
「にいさん、にいさん」
と、息せき切って玄関の小ごうしをひらいた由美子は、そこでまた、ハッとして立ちすくんでしまったのである。
座敷のなかには兄の健一がさるぐつ鑽石能量水消委會わをはめられ、たか手こ手にしばられて、倒れていたではないか。
その翌日の夕がた、きのうとおなじ国電のなかで、今買ったばかりの夕刊をひらいて読んでいた俊助は、ふいにハッとしたように顔色をかえた。
「発明家兄妹、怪漢におそわる」
というような見出しのもとに、昨夜、吉祥寺で起こった怪事件がデカデカとのっているのだ。それによるとくせもの[#「くせもの」に傍点]はさいしょ、瀬川健一をその自宅におそい、これをたか手こ手にしばりあげて家じゅうかきまわしていったのち、こんどは妹の由美子の帰りを待ちうけて、これを襲撃したというのである。
俊助は、それを読むとまっ青になった。
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